ピアノはなぜ88鍵盤なの?その理由や歴史を紹介
ピアノは、現代の標準では88鍵盤をもつ楽器ですが、なぜこの鍵盤数が採用されたのかご存知でしょうか。ピアノの進化の過程で、音域の拡大や技術の発展により、鍵盤数は変化してきました。本記事では、ピアノが88鍵盤にいたった歴史的背景や理由について詳しく紹介し、その魅力に迫ります。
ピアノの誕生はいつ?
ピアノの誕生は、18世紀初頭の1709年、イタリアのハープシコード製作者バルトロメオ・クリストフォリによって生み出されました。
それまで主流だったクラヴィコードやハープシコードは、鍵盤楽器として重要な役割を果たしていましたが、音量や表現の幅が限られており、音の強弱を自由に調整することは困難でした。当時活躍していた作曲家、J.S.バッハやヘンデルも、これらの前身楽器で作曲していたのです。
クリストフォリは、この問題を打破するため、音の強弱を鍵盤のタッチによって表現できるハンマーアクションという仕組みを導入しました。これがクラヴィチェンバロ・コル・ピアノ・エ・フォルテと名付けられたピアノの誕生です。
ピアノ・エ・フォルテは、イタリア語で弱音と強音を意味し、楽器のもつ新たな表現力を反映した名前です。この革新により、ピアノはそれまでの鍵盤楽器とは一線を画す存在となり、のちに多くの作曲家や演奏家に支持されていくことになります。
なお、日本においてピアノが初めて製造されたのは、1900年のことです。ヤマハ(当時の日本楽器製造)が国産第1号のピアノを完成させ、これが日本のピアノ産業の始まりとなりました。
その後、1927年には河合小市によって河合楽器研究所が設立され、翌年にはカワイのグランドピアノ第1号が完成しました。これにより、日本でもピアノの製造技術が大きく進展し、国内外で高く評価されるようになります。
近年では技術の進化にともない、消音機能や自動演奏機能を備えたピアノやアクリル製のクリスタルピアノなど、従来のピアノとは異なる新しい形のピアノも登場し、楽器としての表現の幅がさらに広がっています。
電子ピアノはいつ誕生した?
電子ピアノが誕生したのは、1960年代に入ってからです。
最初に登場したのはアレル・オルガン・カンパニーが発表したRMIエレクトラピアノで、これが電子ピアノの始まりとされています。しかし、当時の電子ピアノは、音の強弱や音量、音色の表現がほとんどできず、現代の電子ピアノよりもキーボードに近いものでした。
演奏者がタッチによって細かなニュアンスを表現することは困難で、電子ピアノはその後の技術進化を待つことになります。日本においては、1973年にローランド社が初めて電子ピアノを開発しました。
その翌年、世界初のタッチで強弱を調整できる電子ピアノが生まれ、演奏の表現力が大きく向上します。この技術革新により、電子ピアノは徐々にアコースティックピアノに近い演奏体験を提供できるようになり、ピアニストにとって実用的な楽器となっていきます。
さらに、1976年にはヤマハも電子ピアノを発表し、日本国内外での市場が拡大しました。その後、電子ピアノは技術の進化にともない、よりリアルな音質や豊かな表現力を備えるようになり、今では多くの家庭やプロミュージシャンに愛用されています。
ピアノはなぜ88鍵盤なのか
ピアノが誕生した当初は、現在のように88鍵ではなく、54鍵の楽器でした。
しかし、18世紀後半から19世紀にかけて、ベートーヴェンをはじめとする有名な作曲家たちが活躍するなかで、ピアノの音域に対する演奏家たちの要求が高まり、鍵盤数の増加が進んだのです。
作曲家たちは、より豊かな表現力を求めて、低音から高音まで幅広い音域を必要とするようになり、楽器製作者はそれに応える形でピアノを改良し、鍵盤数を増やしていきます。19世紀の終わり頃には、ピアノは最終的に88鍵に達しました。
この88鍵は、A0(最低音)からC8(最高音)までの範囲をカバーしており、現在の標準的なピアノの音域として定着しています。
88鍵以上のピアノも試みられたことはありますが、音域がこれ以上広がると、人間の耳にはその音が十分に伝わらないだけでなく、不快に感じられることが分かりました。そのため、ピアノ製作者たちは、この88鍵が最適なバランスであると判断し、以後これがピアノの標準仕様となりました。
さらに、ピアノの最低音と最高音は、調律師にとっても非常に調整が難しい部分とされています。これらの音は人間の耳には聞き取りづらく、正確なピッチを判断するのが難しいため、調律には高度な技術が求められます。
このことも、鍵盤数が88鍵で十分だとされる理由のひとつです。以上のような理由と歴史から、88鍵という音域は、クラシックからジャズ、ポップスにいたるまで、さまざまな音楽ジャンルで必要とされる音の幅を完璧にカバーしています。
そのため、鍵盤数をこれ以上増やす必要がなくなり、現在の88鍵がピアノの標準仕様として広く受け入れられています。
まとめ
ピアノは1709年にバルトロメオ・クリストフォリによって誕生し、以後、技術革新とともに進化してきました。1960年代に登場した電子ピアノは、演奏の幅を広げ、今では多くの家庭やステージで活躍しています。また、ピアノの88鍵盤は、作曲家たちの要望に応える形で最適な音域として定着しました。88鍵以上の拡張は不必要とされ、現在の鍵盤数が最もバランスの取れた形として世界中の標準となっています。